2ntブログ

女神の乳房 第4話

2008/03/12 14:16 


 電話の呼び出し音が、裕美子を覚醒させた。とっさに軽く咳払いをして受話器を取ると夫からだった。急な仕事が入ったので今から出張する、という連絡だった。
 夕食は家でとることが多く、その時間までに帰ることができない時には、今日のように必ず連絡を入れるほど、まめな夫なのだ。大規模な土地開発の工事の商談で、一週間ほど留守にするかもしれないという。
 お気をつけて、と呟いて電話を切った裕美子は、ぐったりとソファに座り込んだ。窓の外には何時の間にか夜の帳が降りようとしている。
(何で……何でなの? そんなにバリバリ働けるのに、何故……あっちはダメなの? どうして……)
 いつものように疑問が湧いてきた。妻として女として当然の疑問だった。夫が精力的に仕事をこなせばこなすほど、裕美子の疑問は深く大きくなっていくのだ。時には腹も立つほどに。
(もしかして……わたしが原因なの? わたしに魅力がないからなの?)
 廻り回って最後は原因を自分に求めることもあった。
(確かに凄い美人っていうわけじゃないけど……。これでも身体の線を保つために努力してるのよ。同年代の女性と比べても悪くないと思うんだけど……)
 自問自答してみても結論は出ない。答えのない堂堂巡りが続く。
(でも、わたしのために働いてくれているんだわ)
 そう考えて今日のところは心と身体の寂しさを堪えることにした。
 ゆっくりと背伸びをすると、裕美子はバッグから手紙の束とシガレットケースを取り出した。細い指で挟んだ煙草に火をつける。ため息とともにメンソールの煙が裕美子の口から吐き出される。いつもはほとんど吸わないのだが、たまに無性に吸いたくなることがある。煙草を吸わない夫にはもちろん内緒で、最近では日に三、四本は吸っている。
 帰りがけにポストから持ってきた郵便物を確認した。
 ほとんどが夫宛のもので、裕美子宛になっているのは化粧品や美容品のダイレクトメールばかりだ。その中に市販の地味な茶封筒が一通、裕美子宛ての手紙があった。差出人は記されていない。
(誰かしら、こんな字に見覚えはないし、ダイレクトメールでもなさそうだし)
不審に思いながらも、達筆で自分の名前が書かれた封筒を開けた。中からは白い便箋が一枚、万年筆でびっしりと書き込まれていた……。




↑ご精読ありがとうございます。ご満足いただけましたら、クリックをお願い致します。
にほんブログ村 小説ブログへ
 ↑さらにご満足いただけた場合は、こちらにもお願いします。

 ↑こちらにもいただけると、大変ありがたいです。

テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

女神の乳房Comment(0)Trackback(0) | Top ▲

 | Blog Top |