金色の背徳 第6話
「何考えてるの?」
まだ余韻の抜けきらない、玲緒奈の甘い声が彼を現実に引き戻した。
「もしかして繭美のこと? だったら許さないわよ」
「まさか。お前が海原と結婚するって言った時のことを思い出してた。もう七年になるんだな」
短くなった煙草を揉み消した。
二人の計画は、玲緒奈の思い通り順調に進んでいる。もし海原が死ねば、財産の半分は妻である玲緒奈が、残りの半分は娘の繭美が相続するのだ。繭美は駿策の妻で、玲緒奈は彼の恋人である。つまり彼が事実上、全財産を懐に入れることになるのだ。
「あの頃、あたしは若かったし、あなたはまだ子供だったわね」
「お前は今も相変わらずきれいだし、充分に若いよ。しかも俺に繭美との結婚を勧めるような、悪魔みたいな知恵もあるしな」
若義母のしなやかな肌を撫でた。
駿策と繭美が結婚することで、二人は世間的には義理ながら母と息子という関係になった。だから海原の死後、西条夫婦が離婚したとしても、法律上玲緒奈と彼の結婚は不可能である。
それを彼女があえて勧めた理由は、結婚という形式よりも財産を得るという実利を選んだからだ。このあたりも彼女の計算高さがうかがえる。
「計画の土台はきっちり整ったけど、まだまだ障害があるわ。早いところそれを取り除かないとね」
遠大な計画の共犯者の顔に戻った玲緒奈は眉をひそめた。
「繭美のことか? 彼女なら大丈夫さ、俺の言いなりになる」
彼は自信をもって言った。
良くも悪くもお嬢様育ちの繭美は、典型的な世間知らずである。
小学校から一貫して私立の女子校に通い、大学を卒業してからも就職せず、家事手伝いの名目で各種の習い事をしていた。夫である駿策に寄せる信頼は絶大で、父が倒れた今ではそれがいっそう顕著になっている。
「あんな小娘、どうってことないわよ」
玲緒奈は繭美を二言目には「小娘」と言う。自分で勧めたとはいえ、「駿策の妻」という身分に嫉妬しているのだろうか。
「涼子と浩太よ。あの二人には注意がいるわ……」
彼女は眉間にしわを寄せた。交わっている最中に見せた悦びのしわと明らかに違う、見事に不快そうな色である。
芦川涼子は、海原の先妻の妹で繭美の叔母である。弁護士をしている三十代後半の肉感的な女だ。法律的には何の相続権も発言権もないが、海原建設の顧問弁護士だけに家の内情には詳しい。
「あの女だけには気をつけないと」
若義母の目は敵意を剥き出しにしていた。玲緒奈と涼子は歳も近く、お互いに嫌い合っている。傍目で見ている彼にはよく分かるのだが、彼女たちは二人とも同じタイプの女だった。
「でも浩太は涼子ほどでもないだろう。あいつは一介のサラリーマンだし、それほど野心家にも見えないし」
何処といって特徴のない、彼の平易な容貌が脳裏に浮かんだ。人が良いだけが取り柄の男で、毒にも薬にもならない、駿策はそう思っていた。
「あなたは甘い。ああいう人畜無害タイプが一番怖いのよ、いざとなったら」
「そんなものか?」
「まあいいわ。二人への対策はあたしが立てるから。ともかくあなたは繭美にだけ気をつけて。ここであたしたちの関係が露見したら、すべてがご破算だから」
ベッドでは翻弄されていた玲緒奈だが、それ以外の私生活ではすべて彼女のリードだ。またそれで上手くいっていることもある。
「じゃあまたしばらく逢えないな」
二の腕を撫でていたてのひらを乳房まで伸ばした。
「そう。だから今日は目一杯エネルギーの補給をしてもらわなきゃ」
玲緒奈は彼の手を握り締め、二度目の挿入へと導いていく……。
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