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女神の乳房 第27話

2008/04/23 14:14 


 ホテルの駐車場ではなく、歩いて五分ほどの有料駐車場に車を置いた。駅を利用するときにも使う所だ。もし誰かに車を見られても不審を抱かれないようにとの配慮からだった。
 車から出てコートをはおる。かえって目立つかもしれないと思ったが、サングラスをかけた。化粧も濃く、服装も派手なので、ふだんの裕美子とは違った装いだ。知り合いに見られても気づかれないかもしれない。
 コツコツとヒールを鳴らし、軽やかな足取りでホテルへ向かう。今日はこの冬一番の冷えこみらしいが、頬を撫でる氷のように冷たい風も、すでに火照り始めている裕美子の肌にはむしろ心地よかった。
 先日と同じく、ロビーは待ち合わせの人々で賑やかだった。
(この中にもわたしと同じ様な目的の人たちもいるのよね)
 身なりを整えた自分と同年輩の何人かの女性を見て思った。自分だけが変わったこと、反道徳的なことしているのではないと言い聞かせたのだ。
 ロビーを素通りし、エレベーターに乗り込んだ。九階のボタンを押した時、閉まろうとするドアの隙間から顔見知りの女性の姿が視界に飛び込んできた。
アッ、と思わず声が出てしまう。それほど意外な人物だったのだ。
 着飾ったその表情からは、裕美子の知っている姿とは別人のような妖艶さをにじみ出させていた。
(美登里さん……)
 横顔をわずかに見ただけなのだが間違いない。何と言っても義理の息子の婚約者だ。いくら裕美子が浮き足立った気持ちでいるとしても、さすがに見間違えることはない。
(何でこんな所に……。貴彦さんとデートなのかしら……)
 見てはいけないものを見てしまったような思いだった。貴彦から紹介されて、その後も何度か会っているが、人ごみの中を闊歩する今日の美登里は、服装だけでなく雰囲気までもどこか違っている感じだった。
(でも美登里さんに間違いないわ……)
 裕美子の疑念をよそに、エレベーターは九階への到着のチャイムを鳴らした。開いたドアの向こうには、静まりかえった廊下が伸びている。
(何だか別人みたい……。まあいいわ……、今のことはしばらく忘れないと)
 903号室の前に立ち、軽くノックをしながら考えた。
 厚いカーテンに包まれた部屋。ソファやベッドの位置、そして薄い照明、すべてがこの前と同じだった。

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テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

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