金色の背徳 第35話
前回までのあらすじは、カテゴリーの「金色の背徳」をご参照下さい。
第二部
第六章 再会
芦川涼子が放逐されて二週間が経った。
彼女と玲緒奈との間に、何が起こったのかを知らないことになっている駿策は、何度か涼子に電話した。事情を知らなければそうすることが自然だろうし、彼自身にとっても、涼子の存在は時限爆弾のようなものでもあるからだ。ただ、彼女の性格から、逆上して駿策との関係を暴露するようなことはしないだろうが……。
しかし涼子が電話に出ることはなく、事務所に連絡しても同じだった。
あんな破廉恥な写真を盗撮されたことは、かなりの衝撃だったろうし、駿策に連絡することも禁じられたのだろう。
「それでも一度は会わないとな……」
今後のこともあるので、彼としては、涼子のことをきっちりとフォローしておきたいと思っていた。万が一、彼女が自暴自棄にならないとも限らない。
ふと思い立ち、書類を作成する手を止めて玲緒奈に連絡を取った。
彼女とは涼子の一件以来、ゆっくり会っていない。海原建設の取締役としての仕事が忙しいらしく、帰宅はいつも深夜のようだ。
三コール目で彼女が出た。
「今、周りに誰かいる?」
何故だか小声になってしまう。
「大丈夫よ。あなたから連絡くれるなんて珍しいわね」
「いきなり嫌味を言うなよ。俺だって気を使ってるんだ」
いきなりの毒舌だ。
「わかってるわ。そうそう、あなた最近、繭美をたっぷり可愛がってるでしょう?」
図星だった。今週は帰宅が早かったので、二日に一回は新妻とベッドを伴にしている。
「繭美の態度でわかるの。この頃あの娘、何だか艶っぽくなって、声まで生き生きしてるもの。あ、別に嫌味じゃないわよ」
「おまえが相手にしてくれないからだよ」
半分は本当の気持ちである。
「あたしだって会いたいのよ……。でもわかるでしょう? 今、会社の業績は上がってるわ。海原がいなくなっても大丈夫だってことを従業員に示しておかなくちゃならないの」
急にしおらしい声で言う。
確かに玲緒奈は社員からの評判も良いようだ。それに取引先はほとんどが土建業者等であるため、彼女の美貌がいっそう威力を発揮していることもうなずける。
「いやいや、充分すぎるほど理解しているよ。じゃあいつ頃なら時間とれそう?」
「そうねえ……」
電話の向こうで手帳をめくっているらしく、
「今日は今から専務と大阪へ出張なの。明後日のお昼には帰れるから、午後ならOKよ」
「わかった、じゃあ明後日の昼にまた連絡するよ。気をつけてな」
「ええ、ありがとう。あなたもあんまり繭美を可愛がりすぎないでね。ちゃんとあたしの分もエネルギーを残しておいてよ」
礼を言いながらも皮肉を忘れないところが彼女らしい。
「そうだ、玲緒奈。涼子の件だけど……、本当に大丈夫なんだよな」
「安心して。もう二度とあたしたちの前に現れることはないわ。あの女も再起不能よ」
含み笑いを残して電話は切れた。
――今夜から明後日の昼間で玲緒奈はいない
頭の中で反芻してみた。
ならば今夜あたり、一度涼子の事務所へ行ってみよう。
玲緒奈は大丈夫と断言するが、彼には一抹の不安もあったし、涼子の身体に未練もある。彼女だってきっと同じ思いだろうし、直接押しかければ追い返されることもあるまい、そう決めると、下半身に力が漲ってきた……。
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