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女神の乳房 第24話

2008/04/12 09:35 



 何年もの間、心に重く沈んでいたものが取り払われ、本当ならすがすがしい気分になるはずなのだが、裕美子の心は晴れなかった。
 夫が出張から帰って来たのは、男と密会した翌日だった。いくら一度きりの関係とはいえ、夫を裏切ったのは確かだ。それも脅されたわけでもなく、明らかに自分の意思で男の胸に飛び込んだのだ。しかも思いっきり乱れ、そして狂うほどに悦んだのだ。そんな思いが夫に対して大きな罪悪感となって裕美子にのしかかってくる。
 いったいどんな顔をして出迎えようか、どういう表情で接しようかなどと一日中思い悩んだ。しかし実際に夫と顔を会わせてみると、自分でも意外なほど普段どおりに接することができたのだ。夫も当然ながら微塵も不信感をもっておらず、あい変らず優しく穏やかだった。
(あなた、ごめんなさい……)
 裕美子は心の中で夫に手を合わせた。何不自由のない豊かな生活。不満を言うだけでバチがあたる、それが他の男に抱かれてしまうなんて……。
(でも……、彼は素敵だった……。あなたには申し訳ないと思うけど……)
 消えかけていた官能に火が燈り、あの日以来、身体が疼くこともある。今までは感じなかった衝動だった。むしろ三十四歳の女なら当然のことかもしれない。
(身体だけじゃない。確かに彼は素敵だったし、わたしは何度も昇りつめた。魂が揺さぶられるほどの悦びだったのは間違いない。でも……、でも彼にはわたしに対する愛があった。愛があったのよ。小手先の技巧、肉体の結合だけでなく、魂と魂の触れ合いがあった。お互いの魂が共鳴して、それが二人の身体に結びついて、そしてあの感動が得られたんだわ)
 あの時間を思い返すたびに身体が熱くなる。肌が火照るというよりも、身体の奥から沸々とマグマのように湧きあがってくるものがあるのだ。
(彼はいったいどういう人なのか)
 何度も思った疑問だった……。



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 まず、少なくとも夫より若い。これは肌を合わせたときに感じた張りやツヤと、裕美子を数回にわたって昇天させた持久力、瞬発力を含めた体力から想像してみた。しかしすごく若いということもないだろう。静かな物腰、落ち着いた責め方、焦らし方、余裕のある愛撫からも、ある程度経験をつんだ年齢ではないかと思った。
 体格も良く、痩せてはいなかった。上背も結構あったようで、百五十五センチの裕美子よりも頭一つは高かっただろう。そういった情報を裕美子なりに分析してみて出た結論が、
『二十代後半から四十歳前後の背の高い、筋肉質の男』
というものだった。
「他に手がかりは……」
 それからこれは重要なことだが、あの人ごみの中で裕美子の姿をすぐに見分けることができた、ということだ。
『自分の今の姿、そして生活環境を知っている』
 とりあえずこの推理を手帳に書きとめてみた。
 ふと、この数日間は一度も身体を動かしていないことを思い出した。疲労もあったが、何をするにもおっくうになっている自分がいたのだ。
 愛車のアウディを駆ってスポーツクラブへ向かう。黒いサングラスを掛け、バックミラーに自分の顔を映してみる。そこには今までの自分とは違う女が居るようで、何だか嬉しくなった。男と愛を交わしてからというもの、心身ともに若返っているのではないかと思えた。肌も艶やかになっているようだし、心なしか乳房もふっくらとしてきているようだった。
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 ジャズダンスはいつも通りだったが、ウエイトトレーニングはいつもの倍以上の量をこなした。若返っているという思いが、裕美子を懸命にさせていた。
(まだ二十代でも通用するかもしれない、わたし)
 メニューをこなしながら裕美子は思った。
(二十代の肉体と、三十代の色気をもった女なんていいわね……)
 帰宅する途中の車の中でも裕美子の心は弾んでいた。夫に対する罪悪感はあい変らずもち続けていたが、あの男への感謝の気持ちの方が大きかった。
 心の闇を鋭利なメスですっぱりと除去してくれた男、言葉には言い表せない悦びを与えてくれた男、女としての自信を取り戻させてくれた男。
(どんなに感謝しても、しきれないぐらいだ)
 口笛が吹けるのなら吹きたいような気分だった。
 ただ一つ残念なのは、あれから男からの連絡がないことだ。もちろん最初に一度だけだと言っていたので、それは仕方のないことなのだが、裕美子は不満だった。
(電話ぐらいくれても良さそうなものだけどなあ……。あんなに激しく愛し合ったんだし)
 あれほど恐れていた男からの連絡を、今では楽しみして待っている。
 もう一度会いたい、時間が経つにつれ、日が経つにつれて裕美子は切実に思うようになった。もう少し話もしてみたい、どんな人なのか興味もある。そして身体の疼きをおさめてもらいたい……、自分を女神と崇めてくれるあの男の手で……。
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(わたしって淫乱なのかな……)
 そんな思いが頭をかすめた時に、携帯電話が軽やかなメロディーを奏でた。運転中はドライブモードにしてあるので、相手にもそれが伝わっているはずだ。
(誰かしら……、もしかして……!)
 裕美子の胸は高鳴った。信号待ちまで我慢できずにアウディを路肩に寄せ、携帯の液晶画面を見る。
「渉さんだわ……」
 何故かがっかりした。数日前までは連絡を心待ちにしていた相手だ。しかし今では遠い過去の一ページになりつつある、ぼんやりとした液晶画面のように。
「あなたとは縁がなかったのよ……」
 思わず洩れる呟きが裕美子の本心だった。
 再会を喜び、いったんはデートの約束までしたものの、二度までもお互いの都合がつかなかった。これは天の配剤というしかない。
 再び軽やかなメロディーが流れる。渉からだったが、かまわず車を発進させた。車のスピードの上昇に合わせてカーステレオのボリュームを上げた。女性ボーカルの声が車内に充満し、渉からのコール音はかき消された。
 家に着いて着替えを済ませてから、念のために携帯の留守番メッセージを聞いてみた。
「また連絡します」という渉からの素っ気ない伝言が残されていた。メッセージを消去すると、裕美子はソファに寝転がった。太陽が西に傾き、冬の日の短い昼の時間が終わろうとしている。
(渉さん、悪いけどもうあなたに会うつもりはないの……)
 そんなことを考えながら、疲れのためか眠りに落ちていった。



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