女神の乳房 第8話
薄暗い寝室。
厚いカーテンが昼の陽射しを遮断していた。唸りを上げたエアコンが送る熱風と、激しくもつれ合う男女の熱気が室内を支配している。
出窓の淵にに手をかけ、腰を突き出した全裸の女。
くびれた白い腰には男の手がしっかりと置かれており、その硬直したものはすでに女の中で躍動を始めていた。
浅黒い肌の男は、後ろから腰を密着させ、浅く深くリズミカルな律動を続ける。小気味のいい動きだ。
「あっ、あっ、あっ、あっ!」
動きにあわせて女の口から喘ぎが洩れ、長く豊かな黒髪がざわめく。目を閉じ、男の動きを少しも逃さないように受け止めている。
女がようやくその動きに慣れてくると、男は動きを変化させた。自分自身の先端が中に残るか残らないかというくらいまで腰を大きく引き、わずかに間をおいて力強く押し込み、その瞬間に女の腰を引き寄せる。男の身体と女の尻が激しくぶつかり、淫靡な音をたてる。
「あっ、ああっ!」
女の声が大きくなり、悲鳴のようになった。
男の先端が自分の深遠まで達すると、頭の中が真っ白になり何も考えられなくなる。立っていられるのが不思議なくらいだ。
叩きつけるような男の律動に合わせて女も腰を突き出す。身体の動きとともに乳房が揺れ、汗がしたたり落ちる。
「ああっ、いっ……いいわっ!」
喘ぎながら女は首を振る。
薄暗い部屋の中でも、上気した白い肌は妖しい光を放っていた。
男は黙々と動き続ける。時おり呼吸音が聞こえるだけだ。腰から離した手で後ろから女の乳房をわしづかみにする。乳房を覆い隠してしまうほどの大きな手のひらだ。男は乳房を愛撫しながら、すべすべとした背中にも舌を這わせる。
(これは夢よ。夢なんだわ)
突き抜けるような強烈な快感の渦の中で女は思った。後ろから抱きしめられているため、男の顔は見えない。ただ男の硬直したものが自分の中で確かに動いている。
(あなたは誰なの? 誰なの?)
女の疑問は、身体を包む甘美な痺れに溶けてしまいそうだった。男がさらに腰を密着させ、より深く入ってくるのを感じた。汗で顔にはりつく髪を何度もかき上げる。
(あなたは誰? どうしてわたしは裸なの?)
声に出して聞こうとするが、口からこぼれるのは喘ぎ声ばかりだった。背骨のあたりを這う男の舌が首筋まで上がってくる。豊かな髪をかきわけ、ほっそりとした白いうなじに舌の感触がし、男の吐息がかかる。
「ううっ、ん。はあぁ!」
腰から崩れそうになった女は窓枠をつかんで堪える。男の舌は耳の裏側、耳たぶあたりまで上がってきた。首をひねって男の顔を見ようとするが、金縛りにあったように動かない。
(何、いったい何なの。これは?)
思うように身体が動かない。
男は右手を柔らかい乳房から離して、そっと股間に差し入れた。たっぷりと潤っている亀裂にそって指を動かし、これ以上ないほど堅くなっている敏感な部分を押さえた。
「ひぃっ、あっ!」
かん高い女の喘ぎ。蜜壺に挿入され、乳房を揉まれ、敏感な突起を触られ、三ヶ所を同時に責められていた。
(だめ、だめ、もうだめ!)
小刻みな指と腰の動きに身体の昂ぶりを押さえ切れなかった。
「だめっ、だめっ!」
何がだめなのか、叫んでいる女自身にも分からなかった。すでに女の意識は男の愛撫に飲み込まれていたのだ。
「ああっ、いいっ! 凄いっ! 凄いわっ!」
男は再び女の腰をつかみ、大きく激しい律動を続ける。女の足が震え、それが全身に及ぼうとしていた。えぐるような感覚が、内臓から脳髄まで届きそうだ。
「ぐ……ふうっ、あっ! だめっ! ああっ、だめっ!」
男に腰を支えられていなければ立っていられない状態まで追い込まれていた。
「あっ、ああっ! だめよ、だめっ! あっ、もう!」
「裕美子、愛してるよ」
薄れていく意識の中で、女は男の声を聞いた。甘く、心の中まで染み込んでくるような響きだった。
「愛してるわっ! わたしも愛してるわっ! ああっ!」
思わず女も絶叫した。硬直したものが激しく脈を打ち、自分の体内に男が放った感触が残った。
女は自分の身体が崩れていくのを感じた。しかし、それは本当に自分の身体なのか。魂を揺さぶられるというのは、こんな感じなのだろうか。かつて味わったことのない充足感と、とてつもなく大きい疲労の波が女の意識を失わせていく……。
携帯電話の軽やかメロディーが裕美子を目覚めさせた。頭を振りながら画面を見ると、夫からだった。寝ていたと気づかれないように声のトーンを少し高くした。
仕事の予定が延びて滞在が長くなるので着替えを送って欲しい、という内容だった。ソファに座りなおして素早く住所をメモする。
「淋しい思いをさせるけど、できるだけ早く帰るから」
「わかりました。お気をつけて」
夫が電話を切るのを待って、裕美子も電話を切った。ふうっ、と息を吐き出し、スカートの乱れを直す。
(また夢だったのね。わたし、本当にどうかしてるわ)
バッグから煙草を取り出し、火を点ける。スポーツクラブでの疲れが出て、知らないうちに眠ってしまったらしい。
(渉さんに会ったからかしら?)
あの変わらぬ笑顔を思い出すと、自然に胸が高鳴ってくるのを感じた。久しく忘れていた感覚だ。しかしもう一方で新たな疑問がゆっくりと顔を出してくるのだ。
(何で渉さん、あんなとこにいたの? あそこの会員とも思えないけど……。偶然? そんな偶然ってあるのかしら? しかもすぐにわたしだって分かったみたいだし……)
財布から名刺を取り出し、渉の自宅と携帯の番号を自分の携帯の短縮ダイヤルに登録する。名前はWとした。
(今度それとなく聞いてみよう。本当に偶然かもしれないし……。でも……、変な夢のせいでなんだか身体が熱いわ……)
再び携帯が鳴った。今度は貴彦からだった。
「どうだった? 親父に話してくれた?」
「それがね、出張で一週間も留守なのよ、ごめんなさいね。電話で話せるようなことじゃないし……」
申し訳なさそうに裕美子が言う。
「そうか、それじゃあ仕方ないよね。じゃあ親父が帰ってきたらお願いします」
「ええ、分かってるから」
簡単な会話を終え、裕美子は電話を切った。
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