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女神の乳房 第7話

2008/03/17 16:45 



 浴室から出ると、裕美子は紅茶をゆっくりと飲みほした。それからいつものように掃除を済ませ、愛車のアウディを駆ってスポーツクラブに出かけた。夫はほとんど乗らないので、ほとんど彼女専用だ。車で十分という近い距離にあることもあって、週に二回は通っている。ストレス解消と、現在のプロポーションを保つためでもある。
 赤いアウディを駐車場に入れ、受付を済ませた。一階にプールや更衣室、喫茶ルームがあり、トレーニングジムやダンス教室は二階だった。
 短パンから伸びる引き締まった太もも、半そでのシャツからのぞく細い二の腕に「きれいな身体ね」「うらやましいわ」いつも羨望の声をかけられる。それらの声に適当に相づちを打ちながら一通りのメニューをこなした。最後の仕上げにプールで泳いだ。
 何かに熱中することで、少しでも不安を忘れたかったのだ。いつも以上に必死だった。
 トレーニングを終え、着替えを済ませた裕美子は、スポーツクラブの喫茶ルームで冷えたオレンジジュースに喉を鳴らしていた。店の大きな窓からぼんやりと通行人の姿を眺める。
 そろそろ勤め帰りのOLやサラリーマンがジムに集まってくる時間だ。店内も少しずつ混みはじめてきている。足を組んだスカートの中からは、運動を終えたばかりの形の良いふくらはぎがのぞいていた。
「裕美子さん」
 掛け声とともに肩を叩かれた。振り向くと、そこには懐かしい顔が昔と変わらないまま微笑んでいた。
「え……、もしかして……渉さん?」




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他人の妻を喰いまくる

 気の抜けたような表情の裕美子の問いかけに笑顔で応え、渉は彼女の前に腰をおろした。スーツ姿でネクタイを締めているので仕事帰りらしい。
「久しぶりだね。昔とちっとも変わってないや。いや、むしろきれいになったのかな」
 健康的な笑顔は十一年前と変わっていない。少し頼りなさそうだったところが消え、自信がみなぎっているようだ。裕美子の胸中に懐かしさと同時に苦いものがこみ上げてきた。
「……ごめんなさい……、あの時は……」
 渉と別れてから思い続けていた言葉を口にした。
「実家のほうでちょっとしたゴタゴタがあって……」
「うん、あの時はビックリしたよ。突然連絡が取れなくなって、アパートも引き払ってたしね」
 注文を取りに来た店員に、渉はコーヒーを頼んだ。顔を会わせると、十一年の空白が一気に埋められていくのを感じた。
「本当にごめんなさい。黙って消えちゃって……」
 裕美子は目を伏せた。
「もう昔のことさ、そんなに気にするなよ」
 屈託のない笑顔が彼女の気分を落ち着かせた。ある一時期、裕美子の心を独占していた笑顔だった。
(本当にこの人、いい意味で変わってない)
「幸せそうだね?」
 服装や身なり、雰囲気から渉は判断したようだ。裕美子はその問いには答えず、あなたは? と逆に聞き返した。
「まあまあかな。あれからいろいろあったけど」
 渉は煙草に火をつけながら、裕美子と別れてから現在までを話し始めた。



 仕事を辞め、アパートも引き払った裕美子の行方を探すのはサラリーマンの身では不可能だった。生まれ故郷のことも県名ぐらいしか知らないし、彼女の友人たちの連絡先もわからない、渉は途方にくれた。
 確かに喧嘩はしたが、それは今までにも何度かあったことだ、二人の関係に致命的な影響を与えたとも思えない。それなのになぜ裕美子は姿を消してしまったのだろうか……。職場にもきちっと辞表を出したようだし、引越しの時にはアパートの家主にも挨拶をしているらしい。すると事故や犯罪に巻き込まれたわけではなく、あくまでも自分の意思で姿を消したのだ……。
 順風満帆だった人生で初めて挫折というものを味わい、途方にくれている時に転勤の話がもちあがってきた。ポストも上がるし、今後のことを考えれば悪い話ではなかった。裕美子のことで自暴自棄になっていた渉はすぐに承諾の返事をした。この場所を離れれば少しは忘れられるだろう、そう思ったからだ。一人息子の転勤に両親は反対したが、出世のためだと説得し、傷心の思いで転勤地に向った。
 三年後、本社に復帰し課長に昇進した。三十二歳での課長は社内でも最年少で、将来を嘱望されていた渉は、常務の娘との縁談をもちかけらる。すでに裕美子とのことは思い出となっていた渉にとって障害となるものは何もなかった。両親も大喜びで賛成し、渉は社内でも有数の実力者である常務の娘婿となった。
 新築のマンションを新居として与えられ、若く美しい妻との結婚生活が始まった。俺の将来は薔薇色だ、渉は思った。しかし、幸せだと思えた期間は結婚後わずかの間だけだった。若く美しい妻は、文字どおり若くて美しいだけで気位ばかり高く、家事もろくにできない。
(お嬢さん育ちなんだからある程度は仕方ないか)
 その程度の事には渉も我慢できた。だが主家の娘が臣下に嫁入りしたような傲慢な態度は許せなかった。
(わたしはあなたの所にお嫁に来てあげたのよ)
 妻の顔には常にそう書いてあった。
 それでも渉は我慢した。この女と離婚すれば俺はこの会社に居られなくなる、唯一にして最大の理由だった。悩んで悩みぬき、眠れぬ夜を何日も過ごしている頃に裕美子の事を思い出したのだ。
(彼女と結婚していればこんな気持ちにはならなかっただろうな)
 後悔の念が胸に渦巻く。
(もしかしたら彼女はどこかで俺を待っているかもしれない。そうだ彼女を探してみよう。このまま仮面を被ったままの結婚生活を続けたって何の意味もない。仕事なら何だってできるし。そうしよう)
 翌日出社し、舅であり上司である常務に辞表と離婚届を叩きつけると、渉はそのまま会社を飛び出したのだ。

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「それで今はどうしてるの?」
 責任の一端を感じながら裕美子は尋ねた。わたしが悪いんだわ、頭の中で何度も繰り返す。あの夜の出来事さえ無ければこの人も……、彼女は自分を責めた。
「前の会社で世話になった先輩がさ、独立して会社を起しててね、誘われてたもんだからさ、今はそこで働いてる。不動産屋だよ」
 裕美子の思いを知ってか知らずか、渉はさらりと話した。
「そうそう、名刺渡しとくよ」
慣れた様子で内ポケットから名刺ケースを出し、サッと一枚抜くと裕美子の前に置いた。
「渉さん立派になったのね、取締役だって」
 自分のことのように喜び、少しは肩の荷がおりたような気がした。初めて渉の顔を、目をはっきり見ることができた。
「社員は三十人ぐらいなんだ、たいしたことないよ」
 頭を掻きながらコーヒーに口をつける。
「俺ばっかり話しちゃったけど、君のほうはどうなんだい。たぶん、結婚はしてるよね」
 淋しそうな視線が、裕美子の薬指のリングを捕らえた。
「ええ……、もう八年になるわ……」
 うつむき、リングをさする。
「そうか……、そうだろうね」
 予期していた言葉に落胆の色を隠さず、自分に言い聞かせるように渉は呟いた。その重く沈んだ声が裕美子の胸に刻まれる。
「また会えるかな? 一度ゆっくり話したいんだ。この十年間の積もる話もあるし、どうだろう?」
 哀願するような、それでいて自信の感じられる誘い方だった。明らかに十一年前とは違う。
「もちろん君の都合の良い時でかまわない。僕のほうが合わせるから」
「でも……、わたし結婚してるのよ」
「分かってるさ、でも会って話をするだけなら別にかまわないんじゃない?」
 もともと憎くて別れた男ではない。何度か抱かれたこともあり、あの事件させなければ間違いなく結婚していた相手だ。記憶の一ページが脳裏に再現され、裕美子の胸に明かりが燈った。
「とりあえず僕の連絡先を教えとくからさ。都合の良い時に連絡してよ」
 名刺の裏に自宅と携帯の番号を書き記した。
「両親も亡くなったし、一人暮しだから誰にも気兼ねすることないしね」
「ごめんなさい。悪いけどわたしは携帯の番号しか教えられないけど……。決してあなたを信用しないわけじゃないのよ、ただ……」
「いいさ、家庭の主婦なんだから当然だよ」
 渉の気遣いに感謝した。裕美子はメモ用紙に自分の携帯番号を書いて差し出す。
「ありがとう、じゃあ連絡待ってるよ。今日は会えて嬉しかった」
 伝票をつかんで渉は立ち上がった。
「あ、そうそう一つ聞いておくの忘れてた。子供さんはいるの?」
「夫の連れ子がいるけどもう大人よ。自分の子はいないわ」
 実子はいない、という返事に渉は一瞬瞳を輝かせ、軽く手を上げて店を出て行った。渉の名刺を手にしながら、裕美子はその後姿が見えなくなるまで眺めていた。久しぶりに訪れる胸の高鳴りを感じながら。




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