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金色の背徳 第37話

2009/04/04 21:27 

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「わたしだって辛いの。せっかくあなたというパートナーが得られて、いろんな意味で飛躍できると思ってたのに……。残念で、悔しくて……、あなたから電話をもらうたびに胸が苦しくなって……」
 駿策は彼女の本心を垣間見た思いがした。
 弁護士という鎧を身にまとい、理知的な女として振舞ってはいるが、本来は一途で情熱的な女なのだ。だからこそ、彼に災難が及ぶことを避けるために身を退いたのだ。
「僕があなたを引きずりこんだばっかりに……」
「ううん、そんなことないわ。わたしもあなたと知り合えて嬉しかったし、楽しかった。後悔はしていないの。だからそんなふうに思わないで」
 自分の窮地にも恋人の心配をする涼子を見ていると、彼の心に本物の罪悪感が沸いてくるのだ。
 お茶を一口すすり、窓の外を眺めた。
 玲緒奈とはもう十年近い歴史があり、今の自分があるのは彼女のおかげだと言っても過言ではない。彼女にはすべての秘密を握られているし、彼の方でも玲緒奈と離れるつもりはなかった。
 しかし、一方で涼子の健気な気持ち、そして満々と蜜を蓄えた肉体も捨てがたい。繭美も含めた三人の女の間を上手く泳いでいきたい、それが駿策の自分勝手な希望だった。
「涼子さん、あなたの正直な気持ちは?」
 泣き腫らした女弁護士の顔を直視し、駿策は言った。
「……わたしは……、あなたを失いたくない……。できることなら、これからもあなたと会い続けたい……」
 崩れた表情を見られたくないのか、涼子はハンカチで顔半分を隠したまま答えた。
「じゃあそうしましょうよ。僕もあなたと別れることはできそうにない」
「……でも……、もしまた見つかったら、きっとあなたでもただじゃ済まないわ。いくら繭美の夫のあなたでも」
 一瞬だけ悦びを顔色に表したが、すぐ物憂げに曇った。玲緒奈の恐さを身をもって知っている彼女らしい。
「もっと用心深く、見つからないように努力するだけです。例えば、僕らが会うのは県外にするとか、尾行に気をつけるとか。普通の共犯者くらいの注意をすれば、いくらでも抜け道はありますよ。現に僕もここへ来るまでにかなり遠回りをしましたよ」
「やっぱり尾行が?」
 目を見開いた涼子に笑って見せ、
「おそらくそれはないと思いましたが、念には念を入れてです。それぐらいの気を使えば大丈夫だってことですよ」
 彼女を安堵させるように言った。

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「……そうね……。今までが不注意すぎたかもしれない」
 涼子は自分を納得させるように呟いた。
「これまでのように頻繁には会えないかもしれませんが、ほとぼりが冷めるまでの辛抱ですよ」
「……ありがとう、駿策さん。本当に、とっても嬉しいわ。あなたを信頼して良かった」
 青ざめていた頬にも赤みが差し、ようやく涼子は笑顔を見せた。目尻に寄った三十八歳のしわも、何だか可愛らしい。
「ところで先生、今夜の予定は?」
「特に……ないけど」
「それなら今夜、僕らの新たなスタートのためにどこかで祝杯を上げませんか? これからのこともゆっくり相談したいし」
「今夜? これから?」
 突然の提案に涼子も驚いている。
「玲緒奈さんも社用で明後日まで留守です。羽根を伸ばすチャンスですよ」
「でもどこで? この辺りは危険よ」
 涼子の問いに、駿策は隣県の都市名を挙げた。ここから車で一時間半、電車でも同じくらいの時間でいける場所だ。
「僕は車で行きますから、あなたは電車を使って下さい。駅に着いたら連絡を取って、その近くのホテルで落ち合いましょう」
「わたしはいいけど、あなたは大丈夫なの?」
「もちろん。最初からそのつもりでここに来ましたから」
「ならすぐに仕度しないとね」
「今からなら七時過ぎには着けます。あなたはそのままホテルに泊まってもらって、僕は帰ります。行きも帰りも別々で冷たいようですが」
 すべてを予測して、繭美にも帰宅は遅くなると言ってあった。駅前のシティホテルも以前に仕事で利用したことがある。
「そんなことないわ。わたしはあなたと会えるだけで嬉しい」
 涼子は少女のように、悦びを身体中で現した。
「じゃあ駅に着いたら連絡して下さい。おそらく僕の方が先に着くでしょうから」
「わかったわ。気をつけてね」
 彼女の肩を軽く叩き、駿策は事務所を後にした……。

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