2ntブログ

金色の背徳 第29話

2009/03/04 21:37 

jukd00989-4.jpg

 玲緒奈や涼子が一緒にいるときは、部屋の片隅で小さくなっているばかり従兄が、今夜は威圧的な雰囲気さえ漂わせている。
「君がおとなしいのをいいことに、遊んでるかもよ、あいつ」
「啓太さん、何が言いたいの?」 
「何でもないよ。ただね、そう何日も新妻をほかっておけるなって思っただけさ」
 啓太の吐き出した煙が、部屋の空気に溶け込んでいく。それを自分が吸っているように感じ、繭美は息苦しさを覚えた。
「ねえ繭美ちゃん」
 態度を一変させ、啓太は猫なで声を出した。
「さっきも言ったけど、僕たち従兄妹なんだ。やっぱり困った時に頼れるのは血の繋がりじゃないかな。そう思わない?」
 ネクタイを緩めながら立ち上がり、啓太は彼女の隣へ腰を下ろした。
――どうしたの、この人――
 彼にしては傍若無人とも思える態度に、繭美は少しだけ恐怖を感じた。
 啓太とは確かに従兄妹だが、彼自身に対しては、これまで好悪の感情を抱いたことはなかった。毒にも薬にもならない、とまで考えたことはないが、それに近い感覚だった。それが今夜はどうだろう。
「西条との結婚、どうだったのかなあ……。僕は初めっから反対だったけど」
「……啓太さん、用がないなら帰って下さい。いくら従兄でもこんな時間ですから。駿策さんに誤解されるとわたし、困ります」
「誤解?」
 啓太は煙草を揉み消し、
「誤解しているのは君の方さ。しかも自分の気持ちをね」
 酒臭い息が繭美の頬に掛かる。
――やっぱりお酒飲んでる――
 何があったか知らないが、酔っ払いの戯言につき合わせられてはたまらない。彼の言うことは意味不明だ。
「なあ繭美ちゃん」
 彼の細い腕が彼女の肩に掛かった。

jukd00606-27.jpg

「やめて」
 害虫を追うようにその手を払いのけ、繭美は立ち上がった。
――この人は、わたしを……――
 ようやく繭美は、現実の危険を察知した。人畜無害な男だと思っていた相手が、今や凶暴な牙を剥き出そうとしている。
「昔はよく一緒にお風呂にも入ったじゃないか。ねえ、覚えてるだろう?」
「帰って!」
 強い口調で言ってみたが、飢えた獣には効き目がない。焦点の定まらない目を血走らせながら、彼女へ近づいて来る。
「もっと自分に正直になれよ、繭美ちゃん」
 だらしなく緩んだネクタイ、ズボンからはみ出たくすんだ色のワイシャツ、常に半開きの口、繭美は浮浪者に襲われているような錯覚がした。
 その時、けたたましい電話の呼び出し音が、二人の間に割って入った。
 繭美は救いを求めるように受話器に飛びついた。
「遅くなってごめん」
 聞き慣れた夫の声が、彼女の耳にはひどく新鮮に響いた。安堵のあまり、すぐに次の言葉が見つからず、
「どうした?」
 駿策の二言目でようやく一息つき、
「ううん、何でもないわ。今ね、啓太さんが来てるの。あなたに用事があるらしいけど、あとどれぐらい?」
「そうだな、三十分ぐらいかな。用事ってなに?」
「あなたに直接話したいって、さっきから待ってるの。じゃあもうちょっとね」
 啓太を凝視しながら繭美は言った。
「何かな……? ともかくすぐ帰るよ、じゃあ」
 繭美も受話器を置いた。
「もう五分ぐらいで着くって。ねえ、啓太さん。このまま帰ってくれるなら、今のことは内緒にしておいてあげるわ」
「わかったよ、帰るよ」
 立場が逆転したことを悟ったらしく、舌打ちを残して啓太は出て行った。
――いったい何だったのかしら、あの人――
 啓太の残した重々しい雰囲気を振り払い、繭美はグッタリとソファに沈んだ……。

juc00030-10.jpg

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(愛欲)へ
にほんブログ村
ご精読ありがとうございます。ご満足いただけましたら、クリックをお願い致します。

ご精読ありがとうございます。応援よろしくお願いします。


テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

金色の背徳Comment(0)Trackback(0) | Top ▲

コメント

Top ▲

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

 | Blog Top |