金色の背徳 第18話
「僕を、待っているのか、繭美さんは……」
夢見るような目つきで啓太は言う。
「少し強引なぐらいが彼女にはちょうどいいわ。何だかんだ言っても、押しの強い男に弱いから、女は」
玲緒奈は二本目の煙草を取り出し、
「もしあなたが繭美さんと上手くいったとしたら、あたしも安心だし、海原だって喜ぶと思うわよ」
あり得ない話を次々と並べ立てた。
海原建設の社員として雇われている啓太だが、社長の甥という縁故にぶら下がっているにすぎない。人並みには程遠い仕事ぶりで、他の会社ならとうの昔に解雇されている。
社長の海原にとっては唯一の甥っ子かもしれないが、玲緒奈からすればどうでもいい他人である。今回の策略が成功したら、海原家としてだけでなく、海原建設からも追放するつもりでいるのだ。
「そうか、僕と繭美さんが……」
繭美との新婚生活でも妄想しているのか、涎を垂らしそうに口元が緩んだ
「でも啓太さん。あたしがこんな話をしたってことは内緒よ、もちろん繭美さんにも。おせっかいな女だと思われたくないから」
愚かな男だとはいえ、釘を刺すのを忘れなかった。今日の啓太との面談は駿策にも知らせておらず、彼女が暖めてきた秘中の秘ともいえる策略なのだ。
「もちろん。それに玲緒奈さんの恩は一生忘れないよ」
「じゃあしっかりね」
感激に打ち震える啓太を残して席を立ち、
「それからひとつだけ言っておくわ。あなたもいい歳なんだから、待ち合わせ時間は厳守しなさい。時間も守れないような男は論外よ」
それだけ言ってスカートを翻した。
――これで後はじっと待つだけ……――
啓太が駒のように動いてくれるのを願うのみだ。店員の「ありがとうございました」という言葉が、啓太のセリフとダブって聞こえた……。
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