金色の背徳 第41話
繭美の言葉に、駿策は自分の顔色が変化したことが分かった。
「ちょうどそのとき、あなたから電話があって……。それで驚いて帰ったのよ」
「啓太が……。でもあいつは従兄だろう?」
「ええ、そう思ってわたしもいままで親しくしていたけど……。どうもあの人にはそれが違うふうに伝わってるみたい……」
繭美の告白を聞き終えたが、不思議と啓太への怒りは沸いてこなかった。
あの人畜無害な男が、という驚きの方が強い。そういえば玲緒奈が言っていた、いざとなるとああいう男が一番危ない、と。
「要するにお前に何か危害を加えようとした、って言うんだな」
夫が念を押すと、妻はしっかりうなずきながらも、
「お酒飲んでたみたいだし……、ちょっと悪ふざけが過ぎただけかもしれないけど。一応あなたには言っておこうと思って……」
「分かった。明日にでもあいつに会ってくるよ」
「待って、それは止めて。別に何でもなかったわけだし、あの人も悪気がなかったと思うの。だから問い詰めるようなことはしないで。わたしはあなたの耳に入れておきたかっただけだから」
憤りを見せる駿策を制した。
この天真爛漫なところが繭美の最大の長所であり、また短所でもあった。それを最大限に利用しているのが当の駿策である。
「お前がそう言うならいいけど。まあこれから家に入れるときは気をつけることだ。おとなしい男に限って酒癖が悪かったりするからな」
「うん、そうする」
「俺もこれからはできるだけ早く帰るようにするよ」
「それから……ね」
繭美は重そうに口を開く。
「涼子さんのこと、お父さんに話そうと思うの」
妻の口から「涼子」の名前が出てドキッとしたが、
「もう玲緒奈さんが話してるんじゃないか?」
表情を変えずに言った。
「何があったか知らないけど、叔母は数少ない血縁の一人。これからも力を貸してもらうことがあると思うのよ」 確かにその通りだ。駿策はうなずいた。
「わたしが頼めば、お父さんも賛成してくれると思う。今までも叔母に何度も助けてもらったみたいだし」
珍しくきっぱりとした口調で言う。
一介の土木作業員だった義父が今日の地位を築けたのは、本人の努力の他に、人には言えない暗部もあるだろう。そんな時に涼子がいろいろ知恵を授けたようだ。
「ずっと会社の成長を見てきた人だしな、玲緒奈さんのお目付け役としては、彼女しかいないだろう」
「よかった。あなたも賛成なのね」
「もちろんさ。涼子さんも喜んで引き受けてくれるよ」
「そうね。あ、でも誤解しないで欲しいの。別に玲緒奈さんが好き放題しているってわけじゃないのよ」
慌てたように付け加える。要するにみんなで仲良くやっていきたい、繭美はそう言うのだ。世の中の人は誰もが善人だと思っている彼女らしい。
ご愛読ありがとうございます。応援よろしくお願いします。
また、ご感想などをメールでいただけるとありがたいです。
にほんブログ村
金色の背徳 | Comment(0) | Trackback(0) | Top ▲